ささみこそ主食

会社員です。映画、ごはん、旅行が好き

読書記録(202104-05)

2ヶ月まとめて読書記録。計8冊。

 

小説編。 

 

雲を紡ぐ 

生きづらい女子高校生と、家族の話。 描写が美しくて岩手に行ってみたくなった。

感想としては、全てが円満な家庭なんてきっとどこにもないんだよなあ、と思う話だった。例えばこの小説の中だと、両親はきちんと(?)安定して働いている家庭で、主人公である娘を名門と呼ばれる学校に通わせるだけの経済力を持っている。"円満な家庭”は概して、経済的に安定していて家族仲が良い、と形容されがちで、この主人公の家族もそれに当てはまるように見える。けれど、主人公が学校に行けなくなったことで、一見円満に見えていた両親の仲も、主人公の母とその両親の仲にもそれぞれ綻びがあったことが明らかになる。

私は父に甘えたことなんてない。父だけじゃない、誰にも甘えたことがない。強く生きろ、男に頼らず生きるようになれ。そう教えたのはお母さんじゃない。

これは主人公の母親が、その母親(主人公からしたら祖母)に対して吐き捨てた言葉だけど、親の呪いっていつまで経っても子供を縛るし、そこから更に自分の子供に対しても無意識の呪いとして縛りがちだよね。厄介だな、と思うのは言った側はそもそもそんなことを言ったことすら覚えていないとか、自分もその呪いに縛られて生きているから、自分の子供を縛っている自覚を持ちにくいことだと思う。良かれと思って言うことすらあるから、変な形で意識を縛ってしまうことになる。

 

子供に教育を付けること、家のローンを払うことだけで終わっている。それなのに、子供に教育をつけることすらできていない。

ちょっと記憶が曖昧だから言い回しは違う気がするけど、これは主人公の父親が独りごちた言葉。結婚して、子供を持って、その子供に教育をつけること、家のローンを返済するために働いている。けど、主人公が学校に行けなくなり、自分自身も職場が不安定になったことで自分の会社人生って一体何だったんだ。。となってしまう。

 よく、自分のためだけに働くことは気力的に限界があって、誰かのために働くほうが圧倒的にモチベーションが上がる、(言外に、”だから子供持ったほうが良いよ”、と示唆する)ということを聞くけれど、それって仮にその誰かが「自分が思うようになってくれない」場合、どういう気持になるんだろうね。仮にそのモチベーションが子供の学費であったり、ペットの治療代であったり、親の介護費であったり、色々なパターンがあると思うけど、100%の結果がかえってくる保証がないことをモチベーションにするって、残念ながら私にはちょっとまだ想像できない。

雲を紡ぐ (文春e-book)

雲を紡ぐ (文春e-book)

 

 

月の影 影の海(上・下)、風の海 迷宮の岸

 気になっていた十二国記に手を付けた。勝手に古代中国のファンタジーだと思っていたけど、主人公が現代の高校生だったり、舞台も実存した中国ではなかったりして(時代設定、背景としては古代中国だけど)意外な要素も多かった。

淡々と出来事の描写が続くのかな〜と思っていたら、主人公の性格や心情の描写が多くて、かつどちらかに偏りすぎることもない描写で引き込まれて読むことができた。

誰にとってもいい子であったということは、誰に対しても合わせていたということじゃないかと思うんです。だからだろうとは思うんですが、中嶋は誰ともうまくやってたかわりに、誰とも特別したしくなかった。誰にとってもつごうがいいだけで、それ以上ではなかったんだと思います。

耳が痛いな、と思いながら読んだ。私は自分の中では好き嫌いがはっきりしているけれど、あえて相手に伝えることはよほど信頼出来る相手以外にはしない。食べ物の好みとか、趣味とか、取るに足らないことであっても。思春期の頃、変わっているねと言われることが多く、今となっては外野がゴチャゴチャうるせーなと思う程度で済ますことができることが出来るけれど、比較的繊細だった当時はなかなか応えた。皆と同じであることが正だと思っていたからね。だから当たり障りのない感じで取り繕っていたけれど、それはそれで「何を考えているかわからない」と言われたり特別に親しい友人はできなかった。踏み込んで来られるまで自分を開示するって勇気がいるよね〜〜私には長い年月が必要で、例えば中学や高校の3年間ではとても無理だった。

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

 

 

風の海 迷宮の岸 十二国記 2 (新潮文庫)

風の海 迷宮の岸 十二国記 2 (新潮文庫)

 

 

 

この気持ちもいつか忘れる 

この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版

この気持ちもいつか忘れる CD付・先行限定版

  • 作者:住野 よる
  • 発売日: 2020/09/16
  • メディア: 単行本
 

 

おいしくて泣くとき

 

ほか

 

九月、東京の路上で

かなり衝撃を受けた一冊だった。中学か高校の歴史の授業で、事実としてあったことは知っていたけれど、どういう経緯で・何を背景として起こったかについては一切触れられずにさらりと流されていた。

「もはや自衛のためのものではなく、社会的に抑圧されていたものが、その屈折した心の発散を弱者に向けるようになったものである。…自分たちのストレスの発散を求めた、完全な弱いものいじめになっている」

 今の世の中と一緒では。

SNSによってあっという間に正誤が不確かな情報が拡散し(さらには情報の信憑性を確かめようともしていない)現代、同様のことが起こったらマジのマジでパニックになるよな。でも災害が起こったとき、誰もがパニックになってて普段以上に冷静な判断ができない。情報に踊らされないようにするって、意識していてもなかなか難しいことだよなあ、、と他人事に思わないようにしなければ。

九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響

九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響

  • 作者:加藤 直樹
  • 発売日: 2014/03/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図

敵と味方を設定し、その間の対立を煽ることによって、政治的資源の獲得が極めて容易になる。したがって、政治関係者やイディオローグは、あなたの多様なアイデンティティを無視して、彼らにとって都合がよい分類に基づくメッセージをあなたに届け続けることになる。

 私達は知らず知らずのうちに分断されていて、無意識のイデオロギーを助長する形のメッセージをあらゆる形で受け取っている、それが分断を加速する、という話。アイデンティティの分断の発見はつまり、政治的争点の発見であって、それはそこら中に転がっている。学歴、貧富、エトセトラ。

個人的に一番興味深かったのが、中国の話。中国は部分的に資本主義のメリットを享受することで今の発展があるけれど、発展すれば多様性が出現し、多様性が出現するとアイデンティティの分断が発生する。これによって国民の不満が政治に向くことになりかねないけれど、政府は統制とナショナリズムで分断を抑制している、という点。そうは言っても中国ってかなりの格差社会じゃない?という点が気になっている(戸籍格差とか) 。